薬湯きわだつ湯守の風習(岩手国見温泉―森山荘

 





朝一番見る湯船はチングルマのお花畑。
身を沈めると湯花がチョーク粉のよう にびっしりと肌に貼りつく。
それを手にすくおうとすると指の間をこぼれ落ちてしまう。

 ここは蝉の音が聞こえない、ただ湯滝の音ばかり。
 エメラルドグリーンと言うよりは、うぐいす豆の粉の色。

 人のいない夜の露天は幽玄。天女が風に舞ってるようだ。


 人は信頼できる者の価値やその感覚に依拠する存在。でもここではそれは必要ない。緑も水もすきとおった風も人情もありのままに流れている。
 女将さんもご主人もお声をかけて下さるので、何か不安なことがあればその場で解決する。客人を家族みんなで支えるこの「癒し」と言うもてなしも薬湯の中に自然に溶け合っている。
 食堂に置かれた駒ケ岳の写真や地図の数々。
モノクロームの湯治風景に笑う。油ののる肉厚なイワナとひっつみ鍋が、湯疲れの胃腸を優しくいたわる。とろろが出た。「待てよ。舌ざわりが違う」。これは“みず”であると言う。この山菜は歯ざわりが良く、おひたしや味噌汁にとさっぱりしていておいしい。最後に湧き水でよく冷えた生ぶどうのジュースでよみがえった。食後に頂いた畑のトマトやとうもろこしもおいしかった。
 森山荘は登山家達の基地でもある。よく晴れた日には山頂から田沢湖や岩手山が見渡せると言う。
 残念ながら1583メートルの横岳付近で濃い霧が発生し、白煙に身をまかれ雨足も早く風も出てきたため初登頂ならず下山とあいなった。
 天候に顔があると言うことを下界では忘れていた。町はただ厳しいひでりが続く。山上の蒸し暑さと肌寒い雨の日はまるで温冷浴のよう。しかしそうであっても盛岡や雫石の夜には涼しい風が今日も吹く。
 







        
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